テニスはミスの多いスポーツですが、多くのプレイヤーはパワーに注目し、それが簡単にウィナーを取る方法だと考えがちです。
確かにパワーは重要ですが、相手にミスをさせることや自分が有利なショットを打てる状況を作ることの方が、試合を支配するうえで重要です。深く安定したグラウンドストロークを打つことで、相手をベースライン後方に押し込み、攻撃の選択肢を制限し、試合の主導権を握ることができます。
本記事では、深いショットがなぜ効果的なのか、単なるパワー重視のプレーと比較したときの利点、そして深いショットを打つための実践的なコツを紹介します。
なぜ深く打つべきなのか?
この記事ではシングルスを中心に解説しますが、その理論や戦略はダブルスにもほぼ同じように適用できます!
テニスの最も基本的な目標は、相手よりも1回多くボールをコート内に入れることです。そして、次に重要なのは相手をコートの外に追いやることです。
つまり、相手がベースライン内側に入ると攻撃しやすくなるため、できるだけ相手を後ろに押し込み、サイドにも追い出すことが重要です。
以下の画像を見れば分かるように、相手がコートの外側にいる場合、その状況は通常「守備的」または「中立的」なポジションであり、攻撃を仕掛けるのが難しくなります。

画像で示されているように、相手に守備ゾーンから打たせることで、ミスをする可能性が高くなります。後方に押し込まれると、バランスを崩したり、体が後ろに傾いた状態になりやすく、ミスにつながります。
この位置から打つと、ボールがアウトしやすくなったり、高く深いボールに対処しようとして過剰に下向きに打ち込み、ネットにかけたり、短くなってあなたの攻撃ゾーンに落ちることがあります。
深さが非常に重要である理由は次のとおりです。
より多くの時間を確保できる
深いショットは相手にプレッシャーをかけるだけでなく、自分自身にも次のショットに備える時間を与えます。
特に、プレッシャーを感じているときやラリーのテンポを落としたいときには、高く弧を描く深いボールを打つことで時間を稼ぐことができます。
相手のパワーを削ぐ
深いボールを打つことで、相手は前に踏み込んで体重を乗せたショットを打ちにくくなります。
その結果、相手のショットの威力が落ち、短くなりやすくなります。これにより、あなたの攻撃ゾーンでチャンスを作ることができます。
相手のアングルショットを制限する
深いショットを打つことで、相手の角度をつけたショットの選択肢を減らすことができます。ベースライン近くまで押し込まれると、鋭いクロスコートショットを打つのが難しくなり、より安全な守備的なショットを選ばざるを得なくなります。
これにより、ラリーの主導権を握ることができます。
相手を守備的なプレーに追い込む
相手がベースラインのかなり後方から打たなければならない場合、選択肢は守備的またはニュートラルなショットに限られることが多くなります。
深いボールは攻撃しにくく、結果的に弱いリターンを引き出すことができ、あなたがコートの中に入り込んで攻撃に転じるチャンスを作れます。
また、多くのプレイヤーは強いトップスピンに圧倒されやすいため、深いショットに適度なスピンを加えることで、より早く相手のミスを誘うことができます。
深さ vs. パワー
パワーは魅力的に見えますが、多くのプレイヤーがスピードにこだわりすぎる傾向があります。しかし、パワーだけでは必ずしもポイントを取れるわけではありません。 パワーが最も効果的なのは、明確なフィニッシュのチャンスがある「フィニッシュゾーン」にいるときです。
以下では、試合の重要な要素において「深さ」と「パワー」を比較していきます。
安定性(Consistency)
パワーショットは特にトップスピンが少ないと、アウトやサイドアウトのリスクが高くなります。 パワーに頼りすぎるプレイヤーは、プレッシャーがかかった場面でアンフォーストエラーを増やしてしまうことが多いです。
一方、深いショットはトップスピンを加えることで高さや軌道をコントロールしやすくなり、プレーの安定性が増します。
その結果、相手にとって難しいポジションでのプレーを強いることができ、ミスを誘いやすくなります。
相手より1回多くボールをコートに入れることができれば、最終的に勝利に近づくのです!
相手を動かす
パワーショットは短いラリーになりやすく、プレイヤーは素早くウィナーを狙おうとします。
しかし、状況によっては深いショットを使うことでラリーを長引かせ、相手を徐々に疲れさせることができます。
深さを意識することで、相手をコートの隅々まで動かし、1ポイントごとにより多くの労力をかけさせることができます。
また、深いショットを使うことで、より安定した方法で攻撃のチャンスを作ることができます。
リカバリーの時間
深いショットを打つと、ボールが相手に届くまでに時間がかかります。
この余分な時間が、自分のポジションを整え、次のショットへの準備をするための余裕を生み出します。
一方で、強くてフラットなショットを打つと、相手の反応時間は短くなりますが、自分のリカバリー時間も短くなるため、素早く返球されると対応が難しくなります。
状況に応じて賢く選択しましょう。疲れているときは、少しでも自分に時間を与えるようなショットを打つのが有効です。
深いグラウンドストロークを上達させる方法
他のテニスのショットや戦術と同様に、深さを向上させるには練習と集中が必要です。
ここでは、一貫性のある深いグラウンドストロークを習得するためのいくつかのヒントを紹介します。
トップスピンを活用する
トップスピンは深さをコントロールするうえで重要です。トップスピンをかけることで、ネットの上を高く通しながら、少し速いスピードで打ってもコート内に収めることができます。トップスピンがかかることで、ボールは飛行中に落ち込むようになります。
「レベルに関係なく、なぜテニスでトップスピンが必要なのか」をご覧ください。
トップスピンが初めての方にとって、バイオメカニクスを学ぶ最良の方法の一つは TopspinPro を使用することです。これは、自宅で簡単かつ素早くトップスピンを習得できるツールです。
ネットの上を高く狙う
深いショットを打つには、高い軌道を狙うことが重要です。これにより、ボールがより遠くまで飛び、ベースライン付近に落ちる可能性が高くなります。
一般的な目安として、深いショットを狙う場合、ネットの 3~6フィート(約90cm~180cm) 上を通すことを意識すると良いでしょう。異なる高さを試しながら、深さとスピードのバランスを見つけてください。
トップスピンと高さを組み合わせた練習ドリルはこちらです
安定性を高める
画像のようにコートにゾーンを設けたり、守備ゾーンのエリアをマークして、ボールを深く入れられるか確認しましょう。
一般的に、ボールがニュートラルゾーンに入ると、相手は守備ゾーンで打たざるを得なくなります。
そのため、コートの後方4~5フィート(約1.2~1.5m)を狙うように意識するとよいでしょう。
これをフィード(球出し)やラリーの中で安定してできるようになれば、深さのコントロールをマスターした証拠です。
ターゲットを狙う練習をする
深さをさらにコントロールするには、ただ一定のラインを越えるのではなく、より正確なショットを練習することが重要です。
深く打つだけでなく、ボールを左右に散らしたり、相手のバックハンド側に集めたりすることができれば、さらにプレッシャーをかけることができます。
コートのベースライン付近の異なるエリアにコーンやマーカーを置き、それを狙って打つ練習をしましょう。
プレッシャー下での練習
練習では安定して打てても、試合のプレッシャー下で同じように打てるかが重要です。そのため、試合を想定した練習を取り入れることが必要です。
また、プレッシャーをかける楽しいトレーニングとして、練習パートナーと「コーン当てチャレンジ」をするのも効果的です。
さらに、試合形式でポイントをプレーする際に、コートの後ろ半分のみでプレーするルールを設けると、実戦的な圧力の中で深いショットを打つ能力を鍛えることができます。
深さを優先するべき場面 vs. パワーを使うべき場面
試合をコントロールするには、深さに焦点を当てるべきときとパワーを使うべきときを理解することが重要です。ここでは、深いグラウンドストロークがより適している場面を紹介します。
ニュートラルなベースラインラリーの最中
私は常に生徒たちに、「ミスをするなら、フォースドエラー(強いプレッシャーを受けたミス)にすること」と伝えています。
もしニュートラルな状態で安定して深いショットを打つことができれば、相手のミスを誘ったり、相手をニュートラルな状態から守備的な状態へと追い込むことができます。
守備をしているとき
もしあなたが守備の立場にいる、またはコート上で振り回されている場合、深いショットを打つことで相手の攻撃を無効化することができます。
深いボールを打つことで、ポジションを回復し、ラリーをリセットする時間を稼ぐことができます。
ポイントを組み立てるとき
コートを広く使い、決定的なショットを打つためのスペースを作りたい場合、深いショットを打つことで相手を徐々に後退させることができます。
相手をベースラインの後ろに押し込んだら、角度をつけたショットやドロップショットで攻撃するチャンスが生まれます。
攻撃的なプレイヤーと対戦するとき
前に出てきて強打する攻撃的なプレイヤーと対戦する場合、深く打つことで彼らが主導権を握るのを防ぐことができます。
深いショットを打つことで、相手を後方に押し込み、不安定な体勢でショットを打たせることができ、ミスを誘発しやすくなります。
また、ムーンボール(高く弧を描くショット)を使い、ボールのスピードを抑えるのも有効です。
攻撃的なベースライナーは、自分でスピードを生み出さなければならず、なおかつ後方に押し込まれるため、フラストレーションを感じやすくなります。
まとめ
テニスにおける深さの重要性は過小評価されがちですが、試合を支配するうえで欠かせない要素です。
パワーも重要な役割を果たしますが、深いグラウンドストロークを打つことでラリーを主導し、相手の選択肢を制限し、決定的なショットを作り出すことができます。
安定性を高め、トップスピンを活用し、狙う場所に意識を向けることで、深さを戦略の中心に据え、自分のプレーを次のレベルへと引き上げることができます。テニスはパワーだけでなく戦略のスポーツでもあります。
深さを自在に操ることで、どんな試合でも大きなアドバンテージを得ることができるでしょう。

筆者名:ゾーイ・ジェフリー
TOPSPINPRO 常任コーチ
イギリスとアメリカで17年間テニスコーチとして活動
【資格】
テニス専門のの学士号、USPTAエリートプロ、PTRプロ、LTAレベル4、PPRピクルボールプロ